ここでは、日本人が余りきちんと理解できていない米国の連邦制についてお話しします。
フェデラリズム
アメリカ合衆国という国が「連邦制」(フェデラリズム)を取っていることは、ある程度知られていると思いますが、その仕組みについてきちんと理解できている日本人は少ないのではないかと思います。連邦(United States)という以上、米国はそれぞれが主権国家である「州」(State)が構成する連合体になっています。この「州」という訳語が曲者で、日本語の「州」は行政区画のイメージですが、英語の「State」は明確に主権国家を意味し、「The state of Japan」(日本という国)のような表現が可能です。私のニューヨークでの事務所は「Japan local government New York」と名乗っていて、日本の自治体を前提にした場合はこの表現で間違いはないのですが、米国の地方組織の名称としての「Local government」には、厳密に言えば「国家」である「州」は含まれないので、「州」政府を含む場合には、「Sub-national Government」という表現を使っていました。
各州は、建前として主権国家になっているだけではなく、それぞれ独立の憲法を持ち、統治機構を持っています。各州には連邦裁判所とは別の州裁判所があり、各州の最高裁判所があります。日本のように「最高裁が一つ」ではなく、州ごとに“別の司法体系”が存在するので、各州が定める州法についての争訟は、州最高裁が終審裁判所になり、連邦最高裁判所に訴えることはできません。また、各州は独自の警察機構や軍事組織も持っています。
連邦政府の位置づけ
各州は連邦政府を組織して、一部の権限を連邦に委任しています。連邦議会への委任事項は合衆国憲法第1条第8節に定められていて、軍事、外交など18項目に渡ります。その18項目目は「上記の権限、並びにこの憲法によって合衆国政府又はその省庁若しくは公務員に対し与えられた他のすべての権限を行使するために、必要かつ適当なすべての法律を制定すること。」となっていますが、この項目はいわゆる「その他条項」として連邦の権限の拡大を可能にするものとは解されておらず、州から連邦への権限委任は限定列挙である理解されています。いわば米国の連邦政府は、50州による「外交・防衛等一部事務組合」なのです。
大統領選挙の仕組み
間接選挙
したがって、一部事務組合の代表者である連邦大統領を選ぶ権限は、「国民が直接選ぶ」のではなく、「州が代表者を通じて選ぶ」という意味で各州にあるのだと理解すれば、複雑怪奇に見える米国大統領選挙の仕組みも一気に分かりやすくなります。まず、直接選挙ではなく選挙人による間接選挙になっているのは、あくまで大統領を直接選ぶのは主権国家たる「州」なのだと考えれば理解しやすいです。大きな州と小さな州との間でのバランスを取るために、人口によって選挙人の数を変えてあるだけで、「州の代表」が投票して大統領を決めているのです。
総どり方式
また、一部の州を除きほとんどの州が「総どり方式」を採用していて、州民の投票で僅差でも勝利した候補に州の全選挙人が投票することにしているのですが、これも選挙人の数というのは州同士の間の調整のために決まっているだけで、あくまで州民の投票で勝利した候補を「州」として支持する仕組みになっていると考えれば、無理のない制度です。
実際、選挙の正当性や信頼性に対して連邦議会で異論が出て、選挙結果を連邦議会として承認しなかった場合には、さまざまな調整手続きを経た上でどうしても合意に達しなければ、最終的には下院での1州1票投票で決着を付けるという仕組みまで用意されているくらいです。もちろん、そこまで紛糾した選挙は過去にありませんが。
過半数得票で落選
米国大統領選挙では、総投票数の過半数を獲得した候補が、選挙制度の関係で敗北するという事態も良く発生します。これも、米国大統領を決める権限はあくまで「州」に帰属するのだということを理解していないと、大変理不尽な状況に見えるのですが、選挙の仕組みを理解すれば、当然にあり得ることだということになります。
もちろん、米国にも大統領選挙の在り方が今のままで良いのかという議論は大いにあります。ただ、フェデラリズムの原則が変わらない限り、選挙制度のみを抜本的に変更するのは、制度上極めて難しいと言わなければならないと思います。

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