フランス語のディクテ

 ここではフランス語の発音の特徴と、それがもたらす影響の一面についてお話しします。

ラテン系言語のスペリングと発音

 フランス語スペイン語イタリア語は、いずれもスペリングと発音との関係がかなり規則的になっています。英語では、同じスペリングなのに発音が違うケース(womanとwomen、lookとpoolなど)がたくさんありますが、ラテン系の3言語ではいずれも、同じスペリングであれば基本的に同じ発音になります。従って、基本的な発音とスペリングの関係さえ飲み込んでしまえば、文字を見て発音することは、意味が分かっていようといまいと、大して難しいことではありません。

逆必ずしも真ならず

 では、逆に発音を聞いてスペリングを推測することも簡単かと言うと、特にフランス語の場合、そうは問屋が卸しません。逆必ずしも真ならずで、フランス語の場合、同じスペリングであれば基本的に同じ発音なのですが、同じ発音だからと言って同じスペリングだとは限らないのです。何故かと言えば、フランス語では、書いてあるけれども発音しない子音が非常に多く、しかも発音されないくせにその文字があるかないかで意味が変わってしまうケースがあるからです。

フランス語表記の難しさ

 典型的なものは、単数と複数の区別です。基本はフランス語も英語と同じように名詞を複数にする場合は単語の末尾にsをつけます(もっとも語末の子音との関係でかなりバリエーションがありますが、変化の仕方はほぼ規則的です)が、ほとんどの場合このsを発音しません。また、動詞は人称によって活用しますが、活用語尾を発音しないケースが非常に多いのです。名詞の前には冠詞がつき、それが単数と複数で変わりますから区別はできるのですが、単語そのものの発音は単数と複数で変わりません。更に、同音異義語がやたらに多い。父親を表すpèreとペア表すpaireが同じ発音だったり、母親を表すmèreは海merと発音が同じだったりします。さらに、読まないだけならまだしも、ふつうは読まない子音が語順次第で読むことになったりするから益々混乱します。

フランス人も苦労している

 こういうフランス語の特徴に悩まされるのは、何も外国人のフランス語学習者だけではありません。当のフランス人自身が混乱を来していて、正確なスペリングでフランス語を表記できるだけで、かなりな程度知的な人だと見なされることになるようです。可哀そうなのは子供たちで、学校でこのややこしいフランス語の表記法を覚えなければならないのは、全く苦労の種に他なりません。そして、こういう事情のため、ヨーロッパ言語では珍しい「書き取りテスト」が行われます。フランス語でディクテ(dictée)と呼ばれるこのテスト、先生が読み上げた文を正確なスペリングで書くことを求められます。

このディクテ(dictée)が、英語に移入されたものがdictationに他なりません。フランス語の dictée は、音と文字の関係が複雑だからこそ成立した伝統です。この「聞いて書く」という訓練こそが、英語学習における dictation の原型なのです。

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