東大入試を起点に英作文を考える

東大入試の英作文問題

 最近の東大入試の英作文問題は、60~80語で与えられたテーマについて論じる自由英作文と日本語の文章の下線部を英訳する和文英訳問題によって構成されているようです。私の考えを言わせてもらえば、前者は間違いなく「英作文」ですが、後者は「英作文」ではありません。「英作文」は英語で何ごとかを表現することのはずで、そもそも書く内容が予め100%決まっている「作文」などあり得ません。ただ、こういう「作文」という言葉の使い方は英語に限った話ではなく、「スペイン語作文」と言えば和文スペイン語訳のことだし、「フランス語作文」と言えば和文フランス語訳を指すというように、外国語学習全体に共通する通弊です。

本来の意味のComposition

 おそらく「Composition」という言葉を「作文」と訳してしまったことが問題なのでしょう。当然のことながら英語圏の学校での「Composition」の授業は良い英語を書くための訓練ですし、フランスの学校での「Composition」は洗練されたフランス語を書くための訓練です。日本語の「作文」も英語・フランス語の「Composition」も、本来自国語の優れた文章を規範として自国語の表現力を鍛える訓練を意味します。であれば、「英作文」は日本人或いは全ての非英語話者にとっても、優れた英語の文章を規範にして自分の英語の表現力を鍛える訓練であるべきです。もちろんいきなり超一流の英文が書けるわけはありません。でもそれはネイティブの子どもたちも同じです。ネイティブの子どもたちも、多くは嫌々ながら、学校で「作文」を学ぶのです。
 このより良い洗練された英文を書くという訓練が、「ネイティブ」や「使える英語」が過度に強調される中で見失われてしまったのです。

翻訳と和文英訳

 また、この「英作文」にはもう一つ別の問題もあります。「和文英訳」としての「英作文」は「翻訳」でもないのです。「翻訳」というのは、そもそも文化的なバックグラウンドが違う言語で、如何にして原文の意味内容、含意、無言の前提や雰囲気までを伝えるか、当然完全には伝わりませんから、何を伝えて何を諦めるかということまで含む非常にクリエイティブな仕事なのです。(具体例については「論語の翻訳」をご参照ください。)しかるに、和文英訳とは、そうした文化的バックグラウンドまで立ち入らない単なる「言い換え」に留まります。「最年長のメンバーがグループの代表に選ばれた」という和文は、「The oldest member was chosen as the group’s representative.」とでも訳せば「和文英訳」的には正解でしょうが、日本語では「最年長だから」代表に選ばれたというニュアンスが強いのに比べて、米国人がこの英文を読めば代表に選ばれた人がたまたま最年長だった」としか受け取りません。

初めから英語で

 この「作文」でも「翻訳」でもない和文英訳は、日本語で言えることが全て英語で言え、英語で表現できることが全て日本語で表現できるかのような誤解を与える点でも、罪が深いです。最近は「瞬間英作文」という取り組みが広く行われているようですが、少なくとも私には意味があるとは思えません。出鱈目でもとぎれとぎれでも良いから、日本語を介さずに、初めから「自分のできる英語」で表現して、それを少しずつ「良い文章」にしていく努力こそ、結局は一番効率的な方法なのです。実は難しいことではありません。何故なら、和文英訳でない以上、自分の言えないことは無理に言わなくて良いし、無理だと思ったら「言いたいこと」を変えてしまえばよいのですから。

英作文の良問を

 2016年の東大の入試問題を見たら、和文英訳の問題は一つもなく、自由英作文が一つと、二段落目まで書いてある文章に論理的な帰結として第三段落を追加する問題になっていました。こういう良問が大学受験の世界で、もっと増えていくことを願ってやみません。

他に、単語文法発音リスニングについての記事があります。

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