「公務員」は英語で何と言う?

 ここでは、「公務員」に当たる言葉を巡る日米の文化の違いについてお話しします。

「公務員」に当たる表現

 私は長く公務員として働いてきましたが、「公務員」を英語で何と表現するかは、なかなか悩ましい問題です。ラテン系言語であれば、スペイン語でfuncionario、フランス語でfonctionnaire、イタリア語でfunzionarioと同系列の適切な言葉があるのですが、英語の場合はそうはいきません。辞書には、英語でも同系列の「functionary」なる言葉があることになっているのですが、米国で使われているのを見たことがありません。

Government employeeの意味

 最も良く目にする表現は「government employee」ですが、これは使う上で注意が必要です。私たちが、事務所の新規赴任者自治体訪問研修でお世話になったとある市役所で、不正支出問題が持ち上がったことがあります。その市役所が、市の予算を使って職員に対する「感謝の集い」を開いた上記念品まで渡していたことが、不正支出にあたり問題だと地元メディアから指摘されたのです。日本でそんなことがあったら一大不祥事になるかもしれませんが、市当局が数日後に発表した声明は実にあっさりしたものでした。「ご指摘の件は事実です。日頃献身的に働いてくれている人たちに、感謝をもって報いるのは市役所(Municipal government)として当然のことであり、市民の皆さんにもご理解いただけるものと信じています。」というのが市の声明の趣旨です。

日米の発想の違い

 日本では考えられないような対応ですが、まず一つ押さえておくべきことがあります。少なくともこの声明の前提としては、公務員(government employee)は、役所(government)の構成員ではないのです。日本では、公務員こそが役所の主要な構成員ですが、この場合のgovernmentは、市長、議員など選挙で選ばれた人たち(elected officials)によって構成され、職員(employee)は、governmentに雇われて実務をこなす人であって、governmentの運営に参画し、意思決定に携わる存在だとは考えられていません。だから、governmentが自身のために働いてくれている人たちに感謝するのは当然だ、という発想になるのです。日本でも、グローバル・スタンダードの名のもとに「コンプライアンス」という概念が導入されましたが、当然のことながら、「コンプライアンス」の基準も文化的バックグラウンドによって変わります。

bureaucrat

 さて、そういう訳で「government employee」は、日本語の「公務員」の訳語としては使いにくいのですが、それでは「役所の構成員・担い手」というニュアンスの言葉がないかというと、「bureaucrat」という言葉があるにはあります。ただ、これは日本語で言えば「役人」や「官僚」というイメージで、概ねネガティブなニュアンスで使われます。「選挙で選ばれたわけでもないのに、役所で幅を利かせて偉そうにしている奴ら」という意味合いがついて回りますから、自分の職業の紹介としては甚だ使いにくいのです。

その他の表現

「officer」という言葉もありますが、私の知る限り主として警察(police officer)軍隊(military officer)などに使われ、「government officer」という言い方もあるのかもしれませんが、一般の公務員を指す言葉としてはあまり耳にしません。「public servant」や「civil servant」を使えという声も耳にするのですが、少なくとも個人の職業を表す言葉としては非常に大きな違和感があります。理念としては語られても、日常語としてこなれた表現では全くありません。

では、どうしたら良い?

では、どうしたら良いかと言えば、結論はシンプルです。「公務員」に該当する言葉がないということは、誰かが「公務員」であるかどうか、「公務員」としての地位や属性を備えているか、ということに関心が持たれていないということを意味しますから、強いて「公務員」だと言おうとしないで、自分がしてきたことをそのまま述べればOKです。私の場合、概ね次のように自己紹介していたと記憶しています。
I have been serving as a director of Tokyo Metropolitan Government.
(私は、東京都庁で管理職を務めてきました。)

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